
東洋と西洋の鐘~音が語る金属のちから~
こんにちは!札幌高級鋳物で修行中の佐々木です。
私は日々、鋳物づくりに関する知識を現場と文献から学びながら、金属の持つ奥深さに驚かされています。
今回は少し視点を変えて、「音」と「金属」の関係に注目したお話をご紹介します。鐘や楽器といった音を奏でる道具が、実は鋳物や合金の性質と深く関わっていること、ご存じでしょうか?
「ゴ~ン」と「カ~ン」の違いはどこから?
日本、中国、韓国などの東洋の鐘と、西洋の教会などで聞かれる鐘の音──耳を澄ますと、その響きに明らかな違いがあります。
東洋の鐘は「ゴ~ン」と重厚な低音が響き、西洋の鐘は「カ~ン」や「カラン」といった高く鋭い音を放ちます。
その違いは、音を受け取る環境や心理状態といった要因もあるとされていますが、もっとも注目すべきは鐘をつくる金属=材質の違いです。
鐘はどちらも青銅──でも錫の量が違う!
東西いずれの鐘も、基本的には青銅(銅と錫の合金)でできています。
しかし、含まれる錫(すず)の量には大きな差があります。
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東洋の鐘(日本など):錫の含有量 約5%
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西洋の鐘(ヨーロッパなど):錫の含有量 約20%
この差が、音の高さや響き方に大きく影響しています。
錫の含有量が多い青銅では、Σ相(シグマ相)などの金属間化合物が生じ、素材自体が硬くなります。
その結果、西洋の鐘はより硬質になり、「カ~ン」と澄んだ高音を生みやすくなるのです。
硬さの代償──「割れやすさ」も上がる
しかし、硬くなるということは、同時に**脆くなる(割れやすくなる)**という性質も併せ持つことになります。
この特性を象徴するのが、アメリカ独立の象徴として知られる**「自由の鐘(リバティ・ベル)」**です。
この鐘は、鳴らし始めて間もなくひび割れが生じてしまい、現在もそのひびが入った状態のまま展示されています。
一方で、東洋の鐘に関しては、割れて使えなくなった例はほとんど聞かれません。
それは錫の割合が少なく、素材に粘りと柔らかさがあるためと考えられます。
楽器にも応用される金属の音響特性
鐘に限らず、金属の性質は楽器の音にも大きな影響を与えています。
たとえば、トランペットやトロンボーンなどの金管楽器には、**黄銅(真鍮、ブラス)**が用いられています。
この黄銅は、銅と亜鉛の合金です。
亜鉛の含有量の違いによって、
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イエローブラス
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ゴールドブラス
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レッドブラス
と呼び分けられ、音色にも違いが生まれます。
一般的に、亜鉛の含有量が増えると硬さが増し、音も明るく・張りのある響きに変わる傾向があります。
金属は「形をつくる」だけでなく、「音をつくる」素材でもあるんですね。
終わりに──素材の違いが響きを変える
弊社の工場でも、始業・終業時に電子チャイムが鳴りますが、ふと「昔は本物の鐘だったのかな」と思うことがあります。
鐘の音には、人々の祈りや時間の感覚、そして鋳物の技術が刻み込まれているのかもしれません。
同じ金属でも、配合が違えば音も性質も変わる。
私たち札幌高級鋳物では、300種類以上の材質を扱い、日々その違いと向き合いながら製品づくりを行っています。
このような知識は、鋳物スピーカー「OKUDAKE」の開発でも大いに役立ちました。
鋳物の特性を活かして開発した鋳物スピーカー「OKUDAKE」は、おかげさまで完売となりました。
鋳物ならではの重厚感と共鳴音が、音にあたたかみと深みを生み出すのです。
これからも、金属が持つさまざまな表情や可能性を、わかりやすくお届けしていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
【参考文献】
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『トコトンやさしい鋳造の本』 B&Tブックス 日刊工業新聞社
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『日本の鋳造と溶解の歴史』 一般社団法人日本鋳造協会