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湯道ひとつで変わる!?鋳物の出来を左右する~「鋳造方案」の世界~

こんにちは!
札幌高級鋳物で修行中の佐々木です。鋳物の世界に飛び込んで半年、毎日が学びの連続です。今日は、最近勉強して興奮した「鋳造方案」について、学んだことをブログで共有したいと思います。

そもそも「鋳造方案」って何?

鋳物って、ただ溶けた金属を型に流し込めば完成するわけではないのです!
「鋳造方案」というのは、どのように金属を型に流すかを設計すること。具体的には「湯口(ゆぐち)」「湯道」「堰(せき)」といった金属の通り道をどうレイアウトするかを決定します。
これが適当だと…なんと鋳物の出来に大きな欠陥が出ることもあるのです、、、!
品質のいい鋳物を作るには、この「湯の流れ方」を細かく計算する必要があることを知り驚きました。

欠陥の原因は「湯面の乱れ」だった!

辻川正人は『砂型鋳物の鋳造方案』で以下のように述べています。

”鋳造欠陥の8割は注湯時の湯面の乱れによるものである”(辻川 2014:78)

湯面の乱れ、つまり金属が型に流れ込むときに泡立ったり、空気を巻き込んだりすることで、鋳物内部に酸化膜や空気が閉じ込められてしまいます。
このときできる「バイフィルム(bi-film)」という欠陥、金属の表面にできた酸化膜が金属の流れの中に折り重なって入り込み、それがまるでヒビのように残ってしまう…恐ろしい存在です。


辻川正人『砂型鋳物の鋳造方案』J. JFS Vol. 86 No. 1(2014)

オフセット湯口の発想がすごい

最近の設計では、「オフセット湯口」と呼ばれる新しい湯口形状が推奨されていることも知りました。これは、注がれた溶湯がカップ内の“土手”を滑るように流れる設計になっており、金属がまるで滑り台を滑るようにスムーズに流れることで、空気の巻き込みを防ぎます。
最初は単なる“カップの形状”かと思っていたのですが、その形ひとつで気泡や酸化膜の混入が減ると聞いて、設計の奥深さを感じました。

湯道設計の基本原則

理想的な湯道系には、以下のような条件が求められます:

  • 流速は遅く(速いと乱流になって空気を巻き込む)

  • 空気や酸化膜を巻き込まない構造にする

  • 途中で湯が乱れを整える仕組みを入れる

  • 湯口・湯道・堰の断面積比を調整する(加圧か非加圧か)

特に面白かったのは、鋳鉄の事例で紹介されていた加圧系と非加圧系の違いです。

加圧系では湯口:湯道:堰=1:0.9:0.8、
非加圧系では湯口:湯道:堰=1:1.5:2

非加圧系にすると、湯道や堰で空気が巻き込まれやすくなる一方で、製品に入る湯の勢いが抑えられて“静かに注湯”できる。静かに、でも早く均一に注ぐという一見矛盾する要求を、湯道の設計で解決する…鋳物って奥が深い!

フィルターでさらなる対策も!

もう一つの武器が「セラミックフィルター」。これを湯道に取り付けることで、流速が下がって乱流が減り、さらには不純物もブロックしてくれます。
辻川正人は『砂型鋳物の鋳造方案』で以下のように述べています。

”フィルターは目詰まりを起こさせにくいようになるべく大きな面積を用いることが効果的である。またセラミックフォームフィルターは気泡を通しにくい”(辻川 2014:82)

バブルトラップとしての効果も非常に高いとのことです。

おわりに

鋳造は、「流れ」の工夫一つで製品の品質が大きく変わります。まるで水の流れをデザインするように、金属の流れを計算し尽くす。それが「鋳造方案」の世界です。
見えない部分にこそ、プロの技術が隠れています。

これらの文献を読むことで、現場研修や先輩方から教わった内容が知識としてしっかり整理され、自分の中に定着したと感じています。改めて、鋳造は「流れ」を制することが品質向上への近道だということを実感しました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからも学んだことをわかりやすく発信していきますので、ぜひ引き続きご覧いただければ嬉しいです。

専門用語解説

用語 解説
鋳造方案 溶湯の流れ方を計画・設計する工程。湯口・湯道・堰を含む。
湯面の乱れ 溶湯が鋳型に流れるときに発生する泡立ちや渦のこと。欠陥の主因。
バイフィルム(bi-film) 酸化膜が鋳物内に折り重なって入ることで生まれるヒビのような欠陥。
加圧系・非加圧系 湯道断面積の比率設計による分類。加圧系は満たされやすく、非加圧系は製品内で静かに注湯できる。
フィルター 湯道などに設置される濾過材。不純物を除去し流速を整える。
オフセット湯口 注湯時に湯が滑らかに流れるよう設計された湯口形状。空気の巻き込みを抑制する効果がある。

参考文献

  • 辻川正人『砂型鋳物の鋳造方案』J. JFS Vol. 86 No. 1(2014)

  • 菅野利猛『鋳鉄の鋳造方案』第161回講演(2012年10月、盛岡)

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