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凝固は劇的! ~金属が固まるとき、何が起きているのか?~

こんにちは!札幌高級鋳物で修行中の佐々木です。
私はいま、現場での経験とあわせて、鋳物や金属の知識を深めるために日々勉強中です。
今回は「金属の凝固」に関するテーマを取り上げてみました。金属が液体から固体になるこの瞬間、実は見た目以上に奥が深くて、製品の品質にも大きく関わってくる大切なプロセスです。
文献を通じて学んだことや、実際の製造現場とつながった気づきを、ブログとして皆さんに共有したいと思います。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!

金属はただ冷めて固まるだけじゃない?

鋳造の現場では、溶けた金属を型に流し込み、冷やして固める――この一連の工程を「凝固」と呼びます。でも実際には、ただ温度が下がるだけではなく、金属内部では非常に複雑な現象が起きています。

たとえば、「ミクロ偏析」という現象。これは、凝固が進む中で元素の分布にムラができることで、特定の元素が液体中に濃縮されることを意味します。その結果、局所的に成分が偏ってしまい、材料の性質に大きな影響を及ぼすのです。

不純物の振る舞いに注目!

では、凝固の中で何が最も影響を受けるのでしょうか?
その一つが「非金属介在物」の生成です。たとえばMnS(硫化マンガン)は、鋼の中でよく見られる介在物です。
武田暁斗ら『凝固過程における溶鋼中からAl₂O₃上へのMnSの晶出挙動』によると、”Mn,Sが濃化した状態を想定した溶鋼にAl₂O₃棒を浸漬して降温することで,固体Al₂O₃上へのMnSの生成を観察できた”(武田 2025:120)と述べています。
この研究では、ミクロ偏析によってMnとSが溶鋼中に濃縮された状態を模擬し、あらかじめ作製したAl₂O₃棒を浸漬することで、凝固中に酸化物上にMnSが析出する様子を直接観察するという非常に実践的かつ新規性のある手法が用いられました
さらに同論文では、Al添加の有無によって析出の様子が大きく変化することも明らかにされており、“Alを添加していない条件では,MnAl₂O₄またはMnAl₂O₄と液相が存在する組成のMnSが生成した。一方,Alを添加している条件では,MnAl₂O₄は存在せず,高MnS濃度のMnSが生成した”(武田 2025:120)と述べられています
これは、製品中の介在物を制御する上で非常に重要な知見です。たとえば、当社でも製品の高品質化に向けて、硫黄や酸素の残留量、アルミニウム添加条件の調整を試みる際、このような実験結果がまさに現場の判断材料になります。

見えない現象を「可視化」する試み

凝固中に何が起きているのかを直接観察するのは困難ですが、川西らの研究はこの難題に挑戦しました。
川西咲子ら『モデル材料を用いた凝固過程における介在物生成挙動のその場観察』によると、”過飽和比が高いほど介在物の核生成頻度が増加し、液相中に均一に分布していく様子が可視化された”(川西 2025:88)と述べています。
この研究では、鋼の代わりに「サクシノニトリル―水―ルモゲンイエロー」というモデル材料を使い、凝固時に介在物がどう発生・成長していくかをその場で観察するという画期的な手法を用いています。

凝固のコントロール=品質のコントロール

大野英樹『過冷金属の凝固』によると、”凝固には「先進晶出」と「後進晶出」があり、温度勾配や冷却速度によりどちらが支配的になるかが異なる。これは鋳物の内部構造に影響し、収縮や割れ、介在物の分布に大きく関係してくる”(大野 2025:92)と述べています。
実際、札幌高級鋳物でも、鋳物の一部だけを意図的に早く凝固させる工夫を日常的に行っています。
その代表が「ヒヤシ(金属冷し)」と呼ばれる技術です。
ヒヤシは、鋳型の中に熱伝導性の高い金属棒(主に鋼)を埋め込むことで、その部分の凝固を早め、巣や収縮などの欠陥が発生しやすい箇所を抑制する手法です。とくに肉厚で冷えにくい部分や、形状的に湯流れが遅れる箇所に有効です。
文献で学んだ「凝固速度」や「ミクロ偏析」の知識が、まさにこの現場技術と直結していることに気づき、学びが一層深まりました。

おわりに

凝固は、「流れ」と「冷え方」の工夫一つで製品の品質が大きく変わります。まるで水の流れをデザインするように、金属の流れと凝固を計算し尽くす――それが鋳造の世界です。見えない部分にこそ、プロの技術が隠れています。
これらの文献を読むことで、現場研修や先輩方から教わった内容が知識としてしっかり整理され、自分の中に定着したと感じています。改めて、鋳造は「流れ」と「凝固」を制することが品質向上への近道だということを実感しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからも学んだことをわかりやすく発信していきますので、ぜひ引き続きご覧いただければ嬉しいです。

専門用語解説

用語 意味
凝固 液体が冷えて固体になる現象
ミクロ偏析 凝固中に元素が局所的に偏って分布すること
非金属介在物 金属の中に混入した酸化物や硫化物などの不純物
MnS 硫化マンガン。鋼中の介在物の一つ
過飽和比 溶液中の濃度が溶解度を超えている度合い
その場観察 実験中の現象をリアルタイムで観察する手法
ヒヤシ(金属冷し) 特定の部分を早く凝固させるために型内に埋め込む金属部材

出典

(1)武田暁斗・黒川拓真・加藤謙吾・小野英樹『凝固過程における溶鋼中からAl₂O₃上へのMnSの晶出挙動』Tetsu-to-Hagané Vol.111 No.3, 2025, pp.112–121
(2)川西咲子・塚原優希・寺島慎吾ほか『モデル材料を用いた凝固過程における介在物生成挙動のその場観察』Tetsu-to-Hagané Vol.111 No.3, 2025, pp.85–94
(3)大野英樹『過冷金属の凝固』Tetsu-to-Hagané Vol.111 No.3, 2025, pp.95–102

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