
耐摩耗鋼って何だ? ~削れてなんぼの現場を支える“強い鉄”のひみつ~
こんにちは!札幌高級鋳物で修行中の佐々木です。
私は現在、現場での経験とあわせて、鋳物や金属材料について日々学びを深めているところです。
今回は、私たちの会社でも取り扱っている「耐摩耗鋼」について文献で学んだことを整理し、自分なりの気づきとあわせてブログにまとめてみました。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
耐摩耗鋼とは?
「耐摩耗鋼」とは、名前の通り摩耗(こすれて削れること)に強い鋼材です。特に、重機や建設機械、鉱山設備など、過酷な現場で激しく削られる部材に使われます。
皆川昌紀は『最近の耐摩耗鋼板の開発動向』で以下のように述べています。
”耐摩耗鋼板は建設機械(ショベル、ブルドーザー等)のバケットや排土板、鉱山機械、土砂搬送車両の荷台、スクリーンなど、土砂・岩石などとの強い接触が生じる部材に使用されている”(皆川 2016:270)
つまり、「削れて当たり前」な環境でも、なるべく削れないようにする材料というわけです。
どうして強い?その秘密は組織と熱処理にあり
耐摩耗鋼の硬さの秘密は、「マルテンサイト」という組織にあります。
これは焼入れという熱処理によってできる非常に硬い構造で、主に炭素量と冷却速度によって形成されます。
皆川昌紀『最近の耐摩耗鋼板の開発動向』によると、”鋼板硬さはマルテンサイト組織によって得られ、その硬さは主として炭素量に依存する”(皆川 2016:272)と述べています。
また、最近では直接焼入れ(DIQ)や熱間圧延直後の急冷による硬化など、高硬度と製造効率を両立させる工夫も進んでいます。
「硬い」だけじゃない!求められる複合性能
現場では、単に硬いだけではダメで、**寒さに強い(靭性)・加工しやすい(曲げ・溶接性)**といった複数の性質が同時に求められます。
皆川昌紀は『最近の耐摩耗鋼板の開発動向』で以下のように述べています。
”耐摩耗鋼には高硬度に加え、溶接施工性、低温靭性、曲げ加工性といった多様な性能が要求されるようになっている”(皆川 2016:270)
特に私たちが住む寒冷地(北海道)では、-40℃でも割れにくい性能が求められるので、その設計はかなりシビアです。
表面改質でさらに強くなる?
志摩政幸ら『炭素鋼の耐食・耐摩耗性改善に関する基礎研究』によると、”炭素鋼の表面にSi微粒子を摩擦によって埋め込み、その後Znピンを処理することで、摩耗量が低下し、人工海水中での赤錆の発生も抑制された”(志摩 2013:122)と述べており。、合金設計だけでなく、表面処理の工夫でも耐摩耗性が改善できるという事例で、今後の応用にもつながりそうです。
どんなところで使われているの?
耐摩耗鋼は以下のような場所で活躍しています
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建設機械(ブルドーザー、ショベル、ダンプなど)のバケット・ブレード・荷台
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鉱山・砕石場のクラッシャー・コンベアライナー
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製鉄・セメントプラントのスラグシュート・ミキサー部材
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農業機械・除雪車・林業機械の刃や駆動部
摩耗を受ける部材において、耐摩耗鋼を使うことで寿命が延び、補修の手間やコストを削減できるという利点があります。
北海道でこの技術を支えるということ
私たち札幌高級鋳物は、北海道では数少ない、耐摩耗鋼を含む特殊鋼の鋳造を手がける会社です。
我々の製品が除雪車の重要な部分に使用されているのは大変誇らしいことなのです。
しかも、取り扱う材質は300種類以上。お取引先の多くは道外で、北海道にいながら全国の製造現場や社会インフラを支える仕事に携われる環境があります。
就職活動中の方にとっても、**「北海道に根を張りながら、全国とつながる仕事ができる」**というのは、大きな魅力ではないかと思っています。
おわりに
「耐摩耗鋼」と聞くとマニアックな響きですが、じつは私たちの暮らしや社会の土台を支える重要な材料です。摩耗に立ち向かうための合金設計や熱処理技術、表面処理の工夫など、その裏側にはたくさんの知恵と工夫が詰まっていることが分かりました。
そして何より、自社の技術がそうした場面で活躍していることに誇りを持てるようになりました。
今後も学びを続けながら、技術の背景や面白さを発信していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
専門用語解説
用語 | 説明 |
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マルテンサイト | 焼入れにより得られる硬く強い鋼の組織 |
靭性 | 衝撃や低温環境でも割れにくい性質 |
DIQ(直接焼入れ) | 圧延直後に水冷し、焼入れと同等の硬さを得る手法 |
表面改質 | 摩擦や拡散などで表面の耐久性を高める処理方法 |
出典
(1)皆川昌紀『最近の耐摩耗鋼板の開発動向』溶接学会誌 Vol.85, No.3(2016):270–274
(2)志摩政幸・渡辺裕之『炭素鋼の耐食・耐摩耗性改善に関する基礎研究』日本マリンエンジニアリング学会誌 Vol.48, No.2(2013):119–124