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耐熱鋼って何だ? ~“熱さ”に耐えて動き続ける鋼の真価~

こんにちは!札幌高級鋳物で修行中の佐々木です。
私は現在、日々の業務と並行して、鋳物や金属材料について文献を読みながら勉強を続けています。
今回は「耐熱鋼」というテーマについて学びを深めました。
高温環境でも強さを保つ鋼――一見シンプルな特徴に見えますが、調べてみるとその裏には非常に精巧な技術と設計思想が詰まっていました。
このブログでは、文献から学んだ内容と、実際の使用場面や現場とのつながりを交えながら、私なりの気づきを皆さんと共有したいと思います。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!

耐熱鋼とは? ~熱くても強くいられる鉄~

耐熱鋼は、名前の通り「高温下でも強度を保ち続ける鋼」です。
発電プラントやボイラー、化学プラント、ジェットエンジンなど、600℃を超えるような高温環境で使われています。
中島英治は『耐熱鋼の高温における強度と組織』で以下のように述べています。

”耐熱鋼は火力発電などの高温構造材料であり、高温での強度保持と長時間のクリープ寿命が重要である。高温では拡散が起こりやすいため、構造変化を制御することが必要である”(中島 2004:23)

つまり、「熱で構造が壊れてしまわないように、金属の内部構造を制御する」というのが、耐熱鋼の設計の鍵になります。

強さの源は「マルテンサイト」と「粒界制御」

耐熱鋼の多くは、マルテンサイトという硬くて強い組織をベースにしています。この組織の中にある「粒界」(ブロック境界やパケット境界)の性質を制御することで、高温でも変形しにくい特性が得られます。
中島英治は『耐熱鋼の高温における強度と組織』で以下のように述べいています。

”マルテンサイト中のブロック境界やパケット境界の性格を理解し、粒界の特性制御を行うことで、長時間高温クリープ変形を抑制できる”(中島 2004:26)

実験でわかった耐熱鋼の構造変化

耐熱鋼は、時間とともに内部構造が変化していきます。とくにクリープ(高温でのゆっくりした変形)では、粒界が移動したり、析出物が出たりと、見えない変化が起こっています。

中島英治は『耐熱鋼の高温における強度と組織』で以下のように述べています。

”9Cr-3Co-3W-V-Nb鋼などで、クリープ後に粒界構造が変化し、特定の方位関係(K-S関係)にある粒界が増加することが確認された”(中島 2004:27)

つまり、耐熱鋼は「時間に耐える」ための工夫が詰め込まれた材料なのです。

実は身近にも?耐熱鋼の使用場面

耐熱鋼はこんな場所で使われています:

  • 火力発電のボイラー管・蒸気タービン

  • ガスタービンエンジン

  • ジェットエンジンのブレード

  • 自動車の排気系部品(エキマニ、ターボチャージャー)

  • 化学プラントの熱交換器・加熱炉チューブ

たとえば、藤田利夫は『最近における耐熱鋼の動向』で以下のように述べています。

”近年の蒸気タービンでは566℃、246kg/cm²に達しており、今後もさらなる高温化が進むとされる”(藤田 1973:286)

こうした分野でのニーズの高さがうかがえます

北海道で耐熱鋼を鋳造するということ

私たち札幌高級鋳物は、北海道で唯一、耐熱鋼を含む特殊鋼を鋳物として扱う企業です。取り扱い材質は300種類以上。全国各地の発電設備や化学プラントなどと直接つながり、北海道にいながらスケールの大きな製品づくりに携われるのが大きな魅力です。

おわりに

耐熱鋼というと専門的で難しそうなイメージがあるかもしれませんが、その背景には「どうすれば高温でも壊れないか?」という知恵の積み重ねがあることがわかりました。マルテンサイトや粒界制御といったキーワードも、ただの理論ではなく、現場での品質・寿命に直結している技術なんですね。

これからも、鋳物の中で使われているさまざまな材料について、現場と文献の両方から学びながら、分かりやすく発信していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

専門用語解説

用語 説明
耐熱鋼 高温環境でも長時間使用に耐えうる鋼材
マルテンサイト 焼入れによって得られる硬い鋼の組織
粒界 結晶粒の境界部分。ブロック境界、パケット境界などがある
クリープ 高温で時間とともにじわじわと起こる変形現象

出典

(1)中島英治『耐熱鋼の高温における強度と組織』鋼と鋼 Vol.90 No.2(2004):23–28
(2)藤田利夫『最近における耐熱鋼の動向』鋼 第44巻 第4号(1973):286–296

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